『知的複眼思考法』講談社+α文庫
苅谷剛彦
「もっとよく考えろ」社会人になってから私がよく言われるワードの一つですが、言われたもののそこからどう考えればよいのかがわからずにいました。(そうするとまた「考えろ」と言われて嫌になってくる)
学生の頃はたいていのことに答えなりハウツーがあったから、ゴールに至るために何をすればよいのかというのは殆どの場合それほど苦労せずにわかったのだけど、社会人になるとそうもいかない。
社会人になって取り組むことは「答えがない」ものが多い、とは学生時代から何かと聞く話だったけれども、自分が実際に社会人になってみると、答えがないものに答えを出すためにどう考えればよいかが、こんなにもわからないものだとは思っていなかった。
本書はそのヒントを与えてくれた。
一言で本書を言い表すと、「複眼思考」のススメ本。
複眼思考とは、簡単に言うとひとつの事象を様々な立場から見ましょう、ということ。
対義語が「単眼思考」で、これは物事の一面しか見ないこと。
たとえば、「なぜ大学生の就職難が起きているのか」という問いに対して、「不況だからだ」で納得してしまうのが単眼思考。
複眼思考では、「大学生」を男女に分けてみたり、大学のレベルで分けてみたりして新たな問いを発見していく。
そうすると、就職難が起きているのは大学生全体ではなく、その一部の問題になり、答えも「不況だから」という1つだけではなくなる。
(不況も要因の1つかもしれないが、不況が全てであれば大学生全体に就職難が起きていなければならない。)
このケースは、第3章「問いの立て方と展開のしかた」で語られていることの一部。
他にも問いをどんどん深めて考えていくやり方の基礎・基本が詰まっている。
上司に「考えろ」と言われたらこのあたりを参考にして考えてみると、良い結果につながりそう。
ただ、この本の中で私にとって最も興味深かったのは、1章「創造的読書で思考力を鍛える」のパート。
これまでの私の読書に対する姿勢は、著者に教わる生徒といった立場に立っていた。
だから、本を読んでも「ふむふむなるほどね」と流し読んでいたのだと気付かされた。
それでは受け身になって、考える力がつかない、と著者は言う。著者も同じ人間なのだから、まず対等な立場に立って読むことが大事であると。
すべてが正しいわけではなく、著者も人間だから忘れていることがあったり、論理が飛躍していることだってある。
著者はどんな立場でこれを書いているのか。
なぜこの本を書いているのか。
主張を支える根拠は正しいか。曖昧ではないか。
著者が正しいとは限らない前提に立ち、論理を丹念に追っていく。
ふむふむと流し読みをしていた私にとって、はっとさせられた内容でした。
ことあるごとに読み返したい一冊。
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